
- ■ はじめに
- 当科では、治療後の予後管理こそ、がん治療を行う者の重要な責務であるとの認識から、すべてのがん患者さんを登録管理し、治療効果の客観的評価や責任ある予後管理に役立ててきました。最近、患者数や5年生存率などのがん治療成績を公表する病院が増えてきましたが、当科ではすでに5年以上前から各疾患別の5年生存率を公表しています。なお、2008年に全国がんセンター協議会から報告された子宮頸癌の5年生存率によりますと、当科の成績は全国1位にランクされました。
- ■当科の診療範囲
- 子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、外陰癌、腟癌、腹膜癌など
- ■標準治療について
- ○子宮頚癌:近年、子宮頚癌全体の患者数は減少しているものの、子宮頚部の上皮内腫瘍は増加しており、しかも若年化傾向にあることから機能温存療法の必要性が高まっています。子宮頸部異形成や頸癌0期(上皮内癌)、Ⅰa1期に対する温存治療としては現在ホロニウムYAGレーザーによる円錐切除術を行っています。以前はより侵襲の少ない光線力学療法(PDT)も実施していましたが、レーザー装置の製造中止に伴い、PDTは2009年6月をもって終了いたしました。妊孕能温存希望のある腫瘍径が2cmくらいまでのⅠb1期に対しては、広汎子宮頸部切除術という新しい術式も取り入れています。一方、進行癌に対しては広汎性子宮全摘術を行いますが、症例によっては手術前に化学療法を行い、根治性を高めています。術後の排尿機能維持のための骨盤神経温存手術を可及的に施行してQOLの向上に努めています。頚癌に対する放射線療法(体外照射と腔内照射)も重要な治療法であり、放射線治療科との連携により、最近有効性の確認された化学療法を同時併用した化学放射線治療を導入しています。
○子宮体癌:最近、顕著な増加傾向が見られます。更年期以降の女性だけでなく、20~40才代の女性にも発症するようになりました。治療法は手術療法が基本であり、術前MRI診断による筋層浸潤の程度から術式を考慮しています。子宮全摘術、両側付属器摘出、骨盤リンパ郭清が基本術式ですが、筋層浸潤2分の1以上、卵巣転移、骨盤リンパ節転移陽性、予後不良とされる組織型の場合などには傍大動脈リンパ節郭清まで施行しています。術後の化学療法や放射線療法も適宜併用しています。また、患者さんの若年化から、妊孕能温存を希望される場合が増加しており、大量黄体ホルモン(MPA)療法を施行しています。
○卵巣癌・腹膜癌:最近、明らかな増加傾向にあり、しかも症状に乏しいために半数以上が進行癌として発見され、10年以内に婦人科癌による死因のトップになると予想されています。半数近くの患者さんが死亡する予後の悪い癌であり、それに対応して治療法も大きく変わりつつありますが、初期治療法の選択が最も重要です。卵巣癌は抗癌剤(特にプラチナ製剤とタキサン類)に対する感受性の高い固形癌ですが、手術療法と効果的に組合せてこそ完全治癒や長期生存が達成されます。また、臨床期や組織型などにより治療法が異なることから、十分な情報提供とインフォームドコンセントに基づいた症例ごとの個別化治療を進めています。若年者の早期癌に対しては患側卵巣の摘出だけの縮小手術を行う一方で、進行卵巣癌に対しては傍大動脈リンパ節郭清を含め徹底した根治術を施行しています。手術後の残存腫瘍の大きさが抗癌剤の有効性に影響することから、外科や泌尿器科の協力により腸切除などを含め腹腔内病巣を可及的に摘出しています。また、化学療法は腫瘍内科と連携して実施し、自宅生活を可能とするために、外来での抗癌剤投与も積極的に取り入れてQOLを高めています。
- ■治療成績について
- 2009年の新規癌患者取り扱い数は、子宮頚癌137例(0期を除く)、子宮体癌112例(異型内膜増殖症は除く)、卵巣癌36例(境界悪性腫瘍は除く)で、手術件数は良性疾患も含め年間607件でした。
当科における主な婦人科癌の5年生存率(1996-2008)は以下のとおりです。
| 子宮頸癌: | I期 93.2% | II期 72.9% | III期 66.4% | IV期 27.8% |
| 子宮体癌: | I期 96.8% | II期 91.7% | III期 62.3% | IV期 26.4% |
| 卵巣癌: | I期 90.5% | II期 79.4% | III期 36.9% | IV期 22.5% |
- ■臨床研究、臨床試験について
-
当院では、婦人科がん患者さんに最善の治療を提供するため、様々な臨床データ(治療成績、画像評価、各種血液データ、病理標本等)を用いて婦人科がんの予後解析や臨床研究を行っています。その結果に基づいてよりよい治療法の確立、治療成績の向上を目指しています。これらの臨床データは通常の診察時に記録されるデータであり、特別に患者さんに負担していただく費用や検査等はありません。患者さんには臨床データ利用の目的と趣旨を御理解いただきますようよろしくお願い申し上げます。このような臨床研究に関してさらに説明を希望される方、またこのような臨床研究への利用を希望されない方は担当医師までお申し出ください。
また婦人科では、新しい薬や新しい治療法や診断法を評価するための「臨床試験(治験・医師主導試験)」にも積極的に取り組んでいます。臨床試験は、これまでの治療法よりも良い治療法を確立することをめざして実施されるものです。実際に新しい治療法の効果が高い結果になることもありますが、良いと思われていた新しい治療法が実際に調べてみると実はそれほど効き目が高くないというケースや、副作用などが強いことがわかるというケースもあります。つまり、臨床試験に参加することが患者さんにとって有利になる場合もありますが、不利になる場合もありえるということです。このようなことが起きるのは新しい治療法の有効性や安全性が判らないためで、そのために、新しい治療法を確立していく過程で多くの患者さんのご協力を得て臨床試験を実施する必要があるのです。臨床試験に参加される患者さんには、臨床試験に参加することで新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、新しい治療法がまだよく分からないものであるために被る不利益があることを十分に理解していただく必要があります。臨床試験に参加したいと思われる患者さんは、医師や専門家から十分な説明を受け、患者さんご自身が十分に納得をした上で、臨床試験への参加を同意していただくことになっています。このような患者さんのご協力の上情報を集める継続的な取り組みによって、患者さんご自身に、あるいは将来の患者さんに、よりよい治療を提供することができることになります。
当科で現在実施している臨床研究・臨床試験は以下の通りです。全て治験審査委員会・倫理審査委員会の承認を得ています。
- ■現在実施中の臨床研究・臨床試験
-
治験
- MORAb-003-004試験
- 白金製剤感受性の初回再発卵巣癌患者を対象としたカルボプラチン及びタキサン系抗がん剤併用時のFarletuzumab(MORAb-003)週1回投与の有効性及び安全性を評価する無作為割り付け二重盲検プラセボ対照第III相試験
日本臨床腫瘍研究グループ (Japan Clinical Oncology Group, JCOG)
- JCOG0503
- プラチナ耐性タキサン既治療卵巣癌に対する経口エトポシドと静注イリノテカン併用化学療法に関する第 II 相試験
- JCOG0602
- III 期/IV 期卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対する手術先行治療 vs. 化学療法先行治療のランダム化比較試験
日本婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構 (Japan Gynecologic Oncology Group, JGOG)
- JGOG1067
- 子宮頸がん I b 期・ II a 期リンパ節転移症例を対象とした塩酸イリノテカン(CPT-11)/ネダプラチン(NDP)による術後補助化学療法に関する第 II 相試験
- JGOG3018
- プラチナ抵抗性再発・再燃 Mullerian carcinoma(上皮性卵巣癌,原発性卵管癌,腹膜癌)におけるリポソーム化ドキソルビシン(PLD)50mg/m² に対するPLD 40mg/m² のランダム化第 III 相比較試験
- GCIG/JGOG 3017
- 卵巣明細胞腺癌に対する術後初回化学療法としてのPaclitaxel + Carboplatin (TC) 療法とIrinotecan + Cisplatin (CPT-P) 療法のランダム化比較試験 (Randomized Phase III Trial)
三海婦人科癌スタディグループ (Sankai Gynecology Study Group, SGSG)
- SGSG-006
- IV b 期および再発子宮頸部非扁平上皮癌に対するドセタキセル+カルボプラチン併用療法の有効性および安全性に関する検討(第 II 相試験)
- SGSG-008/TGCU Intergroup study
- 再発危険因子を有する子宮部非扁平上皮癌 Ib - II 期に対する術後補助療法としてのタキサン製剤 + カルボプラチン併用療法の有効性および安全性に関する検討(第 II 相試験)
- SGSG/TGCU/GOTIC Intergroup study
- 再発卵巣がんに対するリポソーム化ドキソルビシン単剤療法における口内炎予防のためのサポーティブケアに関する検討
関西臨床腫瘍研究会 (Kansai Clinical Oncology Group,KCOG)
- KCOG-G0902s
- Gynecologic Cancer Group 子宮頸部小細胞癌に対する治療法・予後についての後方視的研究
阪神がん研究グループ
飲酒習慣のない70歳未満の女性を対象として中等度催吐性化学療法におけるアプレピタントの有用性を検討するプラセボ対照無作為化第II相試験
院内臨床研究
- (1) Ib2-II期子宮頸がん患者に対する Cisplatin+weekly Paclitaxel による術前化学療法の臨床第 I/II 相試験
- (2) 広汎子宮頸部摘出術術後患者の卵巣機能(anti-mullerian hormone(AMH)を測定)についての調査研究
2011年1月