■ はじめに
■ 標準治療・治療成績について
■ 臨床試験とは
■ 現在行われている臨床試験
●食道
食道癌治療のガイドラインに準拠した院内治療方針を作成し、放射線科ならびに消化器内科の協力のもとに集学的治療を積極的に行なっています。早いステージの食道癌に対しては低侵襲の胸腔鏡下食道切除術を、進んだ食道癌では開胸食道切除術を標準術式としています。また科学的根拠に基づいた治療を行うため日本臨床腫瘍グループ(JCOG)に参加し臨床試験を行っております。
治療成績は5年生存率で stage 0; 91%、stage I; 79%、stage II; 64%、 stage III; 43%、 stage IV; 13% です。
●胃
胃癌治療ガイドラインに準拠した形で院内治療方針を作成し、それを基本方針として術式を検討しています。早期胃癌に対しては低侵襲の腹腔鏡下胃切除術を積極的に行っています。進行癌に対しては必要に応じて他臓器合併切除を含めた広範囲の胃切除とリンパ節廓清を行っています。入院中、退院後を通じてパスを積極的に利用し、安心のできる良質な治療を提供できるように努力しております。また科学的根拠に基づいた治療を行うため日本臨床腫瘍グループ(JCOG)や研究会に参加し臨床試験を行っております。
病期別の5年生存率は IA; 93%, IB; 89%, II; 73%, IIIA; 54%, IIIB; 27%, IV; 7% です。
●結腸・直腸
大腸癌治療ガイドラインに準じた手術療法を中心に行っています。進行癌に対しても根治性を確保できる場合は、腹腔鏡手術を積極的に導入しており、現在では半数以上の症例が腹腔鏡手術の対象となっています。直腸癌では可能な限り神経温存術や肛門温存術を考慮し、術後の機能温存に努めています。肝転移症例も術前化学療法にて根治術を目指した治療計画を立てています。
進行度別の5年生存率は結腸癌で I: 89.6%, II: 77.6%, III: 65.4%, IV: 11.5%、直腸癌でI: 88.2%, II: 85.0%, III: 79.5%, IV: 17.8% です。
●肝臓
肝細胞癌はその90%に背景疾患としてB型やC型肝炎があり、多くは慢性肝炎~肝硬変が併存しています。そのため治療に関しては患者さんの肝予備能と腫瘍側の因子(大きさ、個数、部位、脈管との関係)を常に考慮しながらバランスのとれた治療法を選択する必要があります。長期生存が期待でき、肝機能と腫瘍の部位から安全な手術と評価される場合は根治性が最も高い肝切除を第一の治療法と考えています。また切除が選択されなかった時でも腫瘍の状況に応じて経皮的、開腹下、または腹腔鏡下でのラジオ波やマイクロターゼ焼灼療法を行っています。最近ではミラノ基準(≦3cm,≦3個,脈管侵襲なし,肝外転移なし)を満たす肝細胞癌は生体肝移植の保険適応にもなり、肝機能の悪い肝硬変の患者さんにおける肝癌の究極の治療法として選択肢の一つになりました。その他、粒子線治療や大量抗癌剤動注療法(経皮的肝灌流)、分子標的薬など新しい治療についても説明・御相談をさせていただきます。このように肝細胞癌治療は従来法に先進的治療が加わり、治療の幅が大きく広がりました。肝細胞癌の治療については消化器外科、消化器内科、放射線科や病理との院内カンファレンスを通して個々の患者さんにとって最善の治療法が提供できるように連携しています。また胆管細胞癌や各種の転移性肝癌などその他の悪性腫瘍に関しても積極的に切除を行っています。特に最近は大腸癌の肝転移に関して、消化器内科での術前・術後の化学療法と組み合わせながら切除の適応が拡大しており、予後改善が期待できます。
年間の肝細胞癌切除症例数は約60例、局所穿刺焼灼療法は約50例、転移性肝癌切除症例数は約25例、肝細胞癌治療後の5年生存率はTNM分類の stage I; 78%、II; 65%、III; 53%、IVA; 43% で全国集計の平均を上回っています。
●膵臓・胆道
膵癌・膵腫瘍(膵内分泌腫瘍・嚢胞性膵腫瘍など)・腫瘤形成性膵炎などの治療に際しては、術前に消化器内科や放射線科と協力して質の高い診断を行なった上で、手術適応や切除範囲を決定しています。手術に際しては工夫を凝らした膵切除法や膵吻合法を用いて手術成績の改善を行ない、high volume centerとして症例数を重ねています。特に進行性膵癌に対しては、拡大リンパ節郭清や血管・大腸などの積極的な合併切除を行ない、切除率や根治性の向上に努めてきました。更に集学的治療として放射線科や消化器内科と協力し、さらに地域連携も密に行ない、手術前後に化学療法・放射線療法を積極的に行っています。2000年以降2009年末までで248例の膵疾患手術症例を経験し、そのうち膵癌切除例の5生存率は38%、中央値は20ヶ月(Iva 12ヶ月, IVb 13ヶ月)となっています。一方で切除不能症例に対しては、患者様の「生活の質」(QOL) を考慮したバイパス術や化学療法などを行なうとともに、化学放射線療法にて腫瘍を縮小後に切除を行なった症例も増加がみられます。また特殊な治療法としては、局所動注療法や粒子線治療(紹介)など独自性の高い治療も選択枝に加えています。
胆道悪性腫瘍(胆管癌・肝門部胆管癌・胆嚢癌・乳頭部癌)に対しても2000年以降180例程の手術症例を経験し、肝切除や胆膵合併切除を含めた積極的な手術治療を行なっています。手術不可能例に対しては消化器内科の協力のもとで、内視鏡的ステント術による黄疸の解除後に化学・放射線療法などを積極的に施行しています。
膵癌年度別手術症例数
2002年13例、2003年21例、2004年25例、2005年25例、2006年6例、2007年33例、2008年22例,2009年31例
膵癌手術症例進行度(Stage)別5年生存率
0 :100%、I: 86%、 II :83%、 III :20%、IVa: 43%、IVb :15%
いずれの疾患の場合にも、診療ガイドラインを基本として患者さん・御家族の方の意見を尊重しながら、個々の患者さんに最も適すると思われる治療を選択しています。
病気に対して有効であることが期待される新しい薬や治療法・診断法が見いだされたときには、実際にその安全性や効果について患者さんのご協力を得て調べなければなりません。それらを臨床の現場で科学的に調べるための研究の方法が「臨床試験」です。現在行われている多くの薬や治療法・診断法も、これまでの多くの患者さんの協力で国内および海外での臨床試験によって進歩してきた結果です。また患者さんが臨床試験に参加される場合には、参加することで新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、まだ確立されているわけではない治療だけに被る不利益(予想したほどの効果がない、副作用が出現した等)もあり得ることを十分に理解していただく必要があります。
当院の消化器外科は胃と食道の日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)に参加しております。JCOGは厚生労働省の研究費に基づいて運営されているがんの研究組織です。国内で限定された50前後の施設が参加しており、当院はその一つに認定されております。
現在JCOGを中心として下記のような臨床試験を行っております。
そこで一定の条件を満たす患者様には基本的に臨床試験のお話をさせていただくことがあります。参加は患者様の自由意思に委ねられており、参加していただいた場合は臨床試験に登録された医師によって治療をさせていただきます。また不参加の場合でも当院の治療方針に従って従来の治療を行っており、決して治療の質が落ちるわけではありません。主治医や専門医から説明をうけ、十分に御理解していただいた上で自由に選択して下さい。
ご不明の点は遠慮なく外来担当医、専門医にお尋ね下さい。
よろしくお願いいたします。
根治切除可能な大型3型および4型胃癌を対象とし、術前TS-1・CDDP療法+手術+術後TS-1補助化学療法が、標準治療である手術+術後TS-1補助化学療法に対して優れていることをランダム化比較試験にて検証する。
根治的内視鏡的粘膜切除術の適応とならないT1bN0M0の胸部食道癌に対するCDDP+5FUと放射線照射を同時併用した化学放射線療法が、現在の標準的治療である食道切除術と比較して生存にて劣っていないことをランダム化比較にて検証する。また、第2の目的として、ランダム化(A・B群)の同意取得が困難であった場合、非ランダム化(C・D群)の比較を行う。
治癒切除不能の肝転移(H1)、治癒切除不能の腹膜播種(P1)、もしくは#16a1/b2に及ぶ大動脈周囲リンパ節転移(M1)のいずれか1つを有するstageIV胃癌患者に対して、胃切除術施行後に化学療法を行う治療の優越性を、標準治療である化学療法単独とのランダム化比較第III相試験にて検証する。
臨床病期II/III(T4 を除く)食道癌患者を対象に、50.4 Gy、5-FU + CDDP(1000/75)併用化学放射線療法+/-救済治療(内視鏡的治療、外科切除術)の有効性と安全性を評価する。
EMRの適応とならないT1N0、T1N1、T2(MP)N0(胃癌取扱い規約第13版)の胃癌患者を対象とし、標準治療である開腹幽門側胃切除術に対して、試験治療である腹腔鏡下幽門側胃切除術が全生存期間で劣っていないことを第III相試験にて検証する。
肉眼的深達度 SS/SE の切除可能胃癌に対して、手術時に横行結腸間膜前葉と膵被膜切除、いわゆる網嚢切除を追加することの優越性を多施設共同第 III 相試験により検証する。
治癒切除可能な術前診断 T2-3, N0-2(bulkyN2を除く)の進行胃癌患者を対象として施行した、D2 リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下幽門側胃切除術の有用性を、現在の国際的標準治療である開腹手術とのランダム化第 II/III 相試験にて検証する。
2011年2月